富山県のダム
ダムができるまで
ダムの建設の手順は、大まかにいって次の通りになります。
1)予備調査 まずダムを建設する河川の流域でどの地点がダム建設の適地かを予備調査します。
河川の通常時の水量、過去の洪水、渇水時の状況、水需要の状況などを調査します。
2)現地調査 ダム建設予定地付近の地質調査、水質調査、生態調査、環境調査などさらに詳細に情報を収集します。ここでは調査横坑を掘削して、基礎岩盤の地質調査、地下水位の状況などを調査してダム建設が可能かどうかを決定します。岩盤が比較的強固であれば重力式コンクリートダムも建設できるのですが、岩盤が弱いとロックフィルダムが適応する場合もあります。
3)住民説明会 ダムを建設する地域の住民に対しての説明会を開催します。その中でダム建設に関する内容を公表し、理解を求めます。当然ながら反対意見などが出されて苦慮するのは良くあることです。
4)用地買収 ダム建設に必要な用地買収、またそれに伴う移転、補償などの交渉を行います。ここでもなかなか了承してくれない地権者もいたりして苦慮するのは良くあることです。
5)工事着工式 ダム建設が始まる際に最初に行う儀式が工事着工式です。ここで工事中の安全を祈願します。
6)付替道路 工事用車両のため、またダム建設で既存の道路が使えなくなるために新しく道路を建設します。
6)転流工
図1.転流工
ダムを建設するために図1.のように河川の流れをせき止めて、下流に迂回させるためにトンネル(堤外仮排水路)を建設し、河川は仮締切でせき止めて、ダム建設地点に水が流れないようにします。
コンクリートダムの場合、この締切りもコンクリートで造るのが一般的でしたが、最近ではCSG工法による締切りを造る場合もあります。
トンネルが完成し、川を締切る際に転流式を行います。これは河川の流れが変わりトンネルへ御神酒を乗せた小舟を流して工事の安全を祈願する儀式です。
7)仮設備建設 ダムを造るためには多量の骨材が必要ですので近くの山を削って原石を採取します。
採取したばかりの骨材は大きくてダンプで運べないので、それを細かく砕くための一次破砕設備を設置します。さらにコンクリート製造のための骨材プラント、およびコンクリートを製造するためのバッチャープラントを建設します。最後にコンクリートを建設現場に運ぶためのケーブルクレーンやタワークレーンなどの運搬施設を建設します。
コンクリートの運搬方法によりプラントの建設地点も決まります。
8)基礎掘削 ダム建設地点の伐採、測量、さらに基礎岩盤を露出させるために河床や堤体側面の掘削を行い、弱い岩盤や泥、ゴミなどを取り除きます。
9)基礎処理工
図2.グラウチング
岩盤が露出したら岩盤を検査して、風化している場所や割れ目が入っている場所を確認して基礎岩盤を改良するためコンクリートを流し込んで補強します。
コンクリートダムの場合は、コンソリデーショングラウチングおよびカーテングラウチングが行われます。
コンソリデーショングラウチングは、地表からおおむね5〜10mの浅い範囲にセメントミルクやモルタルを流し込みます。これで岩盤の改良と遮水性を高めます。
カーテングラウチングは、ダム直下の基礎岩盤にカーテン状にボーリングしてセメントミルクを流し込み遮水性を高めて漏水を防ぎます。
フィルダムの場合は、ブランケットグラウチングとカーテングラウチングを行います。
ブランケットグラウチングは、遮水壁と基礎岩盤との連結部分の岩盤内の割れ目にセメントミルクを注入して、遮水性を高めます。
10)骨材確保 原石山を掘削して、発破をかけたりして原石を採石、選別します。
11)骨材製造 原石を一次破砕設備へ運びグリズリにかけてふるい落とし、大きな原石はジョーククラッシャーで砕いて骨材プラントへ運び、さらに細かく砕きます。
12)コンクリート製造 骨材をバッチャープラントに運び、コンクリートを製造します。セメントと骨材、水、混和剤をコンクリートミキサーで混ぜ合わせます。最近流行のRCD工法では、セメントの量を少なくして超固練りのコンクリートを使います。
13)コンクリート運搬 コンクリートを堤体に運搬する方法としてはタワークレーンを使う場合、ケーブルクレーンを使う場合、インクラインを使う場合などがあります。

図3. ケーブルクレーン
ケーフルクレーンは、図3のように両岸にケーブルを渡してそれをロープウエーにしてコンクリートパケットを吊り下げて、コンクリートを運搬します。

図4.タワークレーン
図4.のタワークレーンは、建築・土木を問わず良く採用される方法です。ダムの高さが高くなるにつれてマストを高くする必要があるのでクレーンで吊り上げて継ぎ足していきます。

14)コンクリート打設 ダム堤体にコンクリートを打設する工法は、大きく分けて2つあります。
1)柱状工法(従来工法)
2)面状工法(合理化施工法)

柱状工法はさらに2つに分類されます。

図5.ブロック工法
(1) ブロック工法
ブロック工法は、ダムのコンクリートの打設の際、図5.のように縦継目、横継目によっていくつかのブロックに分割してコンクリートを打設する工法です。施工途中に各ブロックが柱状に立ち上がり、ブロック間で5m〜10mの段差ができるので安全上問題があり、施工にも制約ができるのが欠点です。
この工法は以前から用いられていた工法で、従来工法として分類されます。

図6.レヤ工法
(2) レヤ工法
レヤ工法が、ブロック工法とは異なる点は縦継目がなく、横継目だけでブロックを分割することと、ブロック間の段差をつけずに1リフト差だけで打ち継いでいくことです。この工法も従来工法に分類されます。

面状工法は、従来工法とは異なり面状にコンクリートを打設する方法でより効率的な施工が可能です。
面状工法は、次の2種類に分類されます。

1)拡張レヤ工法
拡張レヤ工法はELCM(Extended Layer Construction Method の略、エルコムと発音されるようです)ともいいます。
レヤ工法との違いは、レヤ工法では横継目により多数のブロックに分割されますが、拡張レヤ工法は施工設備などの許す範囲内でできるだけ継目を設けずに大きな範囲を一度に打設する工法です。横継目は、打設後、振動目地切機などにより設置します。打設面に段差が生じないため、RCD工法とともに面状工法として分類されます。
中小規模のコンクリートダム建設に採用されますが、大規模ダムの上部もこの拡張レヤ工法が用いられます。
2)RCD工法
RCD工法(Roller Compacted Dam-Concrete)は、わが国で開発された工法で、セメントの量を少なくした超硬練りのコンクリートをブルドーザーで敷均し、振動ローラで締め固める工法です。この工法も拡張レヤ工法と同様に打設面に段差が生じないため、面状工法として分類されます。
従来工法に比べ、ブルドーザーや振動ローラといった大型機械を大規模に使用することで大量打設が可能であり、工期の短縮と工費の低減、工事の安全性を図ることができます。
そのため最近の大規模ダムはこの工法を用いることが多くなっています。

図7.面状工法

打設を始めるときには初打設式を行います。打設がある程度進んでダムの形ができたところで定礎式を行います。
また打設の途中で50万m3や100万m3など区切りの打設量を達成したときには打設達成式を行います。そしていよいよ打設が完了したら打設完了式を行います。ここまでくればあと一歩でダムも完成ですね。
15)減勢工 ダム湖の水をゲートから放流する際に水の勢いを殺さないと河床が浸食されたり下流の環境に悪影響を与えることも考えられるので減勢工を設置します。導流壁で水を導いて副ダムで水を貯めて、水の勢いを殺します。
これらの設備もコンクリートを打設します。

図8.減勢工の仕組み
16)取水、放流設備 ダム湖の水を取水するための取水設備、放流するためのゲートやバルブなどもかなり大きい部材を使用するのでクレーンで運びながら組み立てていきます。
17)管理施設 管理棟や係船施設などダムを管理するための施設も設置します。
18)環境保全 最近ではダム建設に伴う環境破壊が問題となっていて、環境を保全するためビオトープを設けることがあります。
またダム下流の法面に植林するケースもあります。
18)試験湛水 ダム堤体が一応完成すると堤外仮排水路を閉塞してから堤内仮排水路を遮断して、試験湛水が開始されます。ダムに実際に貯水してダムに問題がないかをチェックするための試験です。この際に湛水式が行われます。
サーチャージ水位まで貯めてから最低水位まで放流し、ダム本体、放流設備、貯水池周辺等の安全性を検証します。サーチャージ水位に達するまで半年〜1年程度かかるのが普通ですが、場合によっては数年に及ぶこともあります。試験湛水が終わって安全性が確認された後、管理に移行します。
19)竣工式 試験湛水も無事完了すると、竣工式が行われます。これでダムも正式に完成となります。